デザイン思考とは?アート思考との違いとそれぞれのパターン、DXに取り入れた際のメリットなどをご紹介!

近年、ビジネス環境が急速に変化する中で、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が高まっています。その中で注目されているのが「デザイン思考」と「アート思考」です。これらの思考法をDXに取り入れることで、ユーザー視点のサービス開発や、独自性の高いビジネスモデルの構築が可能になります。本記事では、デザイン思考とアート思考の違い、DXに取り入れる際のメリット、成功事例などについて解説します。
目次
デザイン思考とは?
デザイン思考とは、人間中心の課題解決アプローチであり、ユーザーの潜在的なニーズを発見し、創造的な解決策を生み出すための方法論です。従来のビジネス思考が「問題解決型」であるのに対し、デザイン思考は「問題発見型」のアプローチを取ります。
デザイン思考のプロセスは主に以下の5つのステップから構成されています:
- 共感(Empathize):ユーザーの立場に立ち、彼らの行動、思考、感情を理解する
- 問題定義(Define):観察から得た洞察をもとに、真の課題を明確化する
- アイデア創出(Ideate):多様な解決策のアイデアを幅広く生み出す
- プロトタイプ(Prototype):アイデアを形にして試す
- テスト(Test):ユーザーからのフィードバックを得て改善する
このプロセスは直線的に進むのではなく、反復的に何度も行われることで、より質の高い解決策へと進化していきます。デザイン思考の特徴は、「ユーザー中心」「多様性の重視」「実験的アプローチ」の3点にあります。
DXの文脈において、デザイン思考は単なるデジタル化ではなく、ユーザーにとって真に価値のあるデジタル体験を創出するための重要な思考法として位置づけられています。
デザイン思考とアート思考の違い
デザイン思考とアート思考は、創造的なアプローチという点で共通していますが、その目的や方法論には明確な違いがあります。
項目 | デザイン思考 | アート思考 |
---|---|---|
目的 | ユーザーの課題解決 | 新しい価値の創造 |
出発点 | ユーザーのニーズ | 創作者の内面や感性 |
プロセス | 体系化された方法論 | より自由で直感的 |
成果物 | 実用性重視 | オリジナリティ重視 |
評価基準 | 有用性・使いやすさ | 独自性・美的価値 |
デザイン思考が「ユーザーの問題をいかに解決するか」という実用主義的な視点を持つのに対し、アート思考は「これまでにない価値をいかに創造するか」という審美的・哲学的な視点を持ちます。
デザイン思考がデータや観察に基づく合理的なプロセスを重視するのに対し、アート思考は直感や感性、個人の独自の視点を重視します。しかし、両者は対立するものではなく、補完関係にあるとも言えます。DXにおいては、デザイン思考によるユーザー視点のソリューションにアート思考による独自性を加えることで、より競争力のある価値提案が可能になります。
デザイン思考のパターン
デザイン思考にはいくつかの代表的なパターンやフレームワークがあります。これらを理解し、適切に活用することで、より効果的なDX推進が可能になります。
ダブルダイヤモンドモデル
イギリスで提唱されたフレームワークで、「発散と収束」のプロセスを二回繰り返すモデルです。第一のダイヤモンドでは「正しい問題を見つける」ことに集中し、第二のダイヤモンドでは「正しい解決策を見つける」ことに注力します。
このモデルの特徴は、問題定義の段階にも創造的思考を適用する点にあります。DXにおいても、単にデジタル技術を導入するのではなく、まず組織やユーザーが直面している本質的な課題を理解することから始めることが重要です。

デザインスプリント
Googleの子会社であるGV(Google Ventures)が開発した5日間のプロセスで、短期間で具体的な成果を出すことを目的としています。
1日目:課題理解と目標設定
2日目:多様なアイデア出し
3日目:最適な解決策の決定
4日目:プロトタイプ作成
5日目:ユーザーテスト
このフレームワークはスピード感を重視しており、DXのような変化の速い領域での意思決定と実行を加速させるのに効果的です。特に、ITリテラシーの異なるメンバー間でのコミュニケーションを促進する点でも有用です。
どうして、DXが注目されているのか?
DXが注目されている背景には、以下のような要因があります。
デジタル技術の急速な進化
AIやIoT、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術は、過去10年間で劇的に進化し、ビジネスモデルを根本から変革する力を持つようになりました。これらの技術を活用することで、企業は効率化だけでなく、これまで不可能だった価値提供が可能になっています。
顧客期待の変化
デジタルネイティブ世代の台頭により、顧客はより便利で、パーソナライズされた、シームレスな体験を求めるようになっています。従来のアナログなビジネスプロセスでは、これらの期待に応えることが難しくなっています。
競争環境の変化
デジタル技術を活用した新興企業が既存の業界構造を破壊する「デジタルディスラプション」が各業界で進行しています。従来のビジネスモデルや組織構造にこだわり続ける企業は、市場での競争力を急速に失いつつあります。
社会課題の複雑化
少子高齢化、労働力不足、環境問題など、現代社会が直面する課題は複雑化しており、従来の発想や方法では解決が困難になっています。DXは、これらの社会課題に対する新たな解決策を提供する可能性を秘めています。
このような背景から、企業はデジタル技術を単なる業務効率化のツールとしてではなく、ビジネスモデル全体を変革し、新たな価値を創造するための戦略として位置づけるようになっています。そして、その推進においてデザイン思考やアート思考といった創造的アプローチの重要性が高まっているのです。
DXにデザイン思考を取り入れるメリット
DXにデザイン思考を取り入れることで、組織は多くのメリットを享受することができます。主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。
ユーザー中心の価値創造
デザイン思考の「共感」のプロセスを通じて、表面的なニーズだけでなく、ユーザーの潜在的な課題や欲求を深く理解することができます。これにより、単なるデジタル化ではなく、真にユーザーの生活や業務を向上させるデジタルソリューションの開発が可能になります。
例えば、銀行のDXにおいて、単にオンラインバンキングを導入するだけでなく、ユーザーの金融行動の背景にある不安や目標を理解することで、より付加価値の高いデジタルサービスを設計することができます。
イノベーションの促進
デザイン思考の「アイデア創出」フェーズでは、多様な視点からの自由な発想が奨励されます。これにより、従来の業界の常識や組織の前提にとらわれない革新的なアイデアが生まれやすくなります。
また、プロトタイピングとテストを繰り返すプロセスは、失敗を恐れずに新しいアイデアを試す文化を醸成し、組織全体のイノベーション能力を高めることにつながります。ITリテラシーの高低に関わらず、多様なメンバーが参加できる点も、イノベーション促進に寄与しています。
開発リスクの低減
デザイン思考では、実際のユーザーフィードバックに基づいて早期かつ頻繁に方向修正を行います。これにより、大規模な投資を行った後に「ユーザーのニーズと合っていなかった」というリスクを大幅に低減することができます。
特にDXプロジェクトは複雑で不確実性が高いため、従来の「計画→実行」型のアプローチではなく、仮説検証を繰り返すデザイン思考のアプローチが効果的です。小規模なプロトタイプを通じて学習を蓄積し、段階的に解決策を洗練させていくことで、より確実に成功へと導くことができます。
DXでデザイン思考を行う上でのポイント
DXにデザイン思考を効果的に取り入れるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、特に重要な3つのポイントを紹介します。
組織横断的なチーム編成
デザイン思考は多様な視点からの問題解決を重視します。DXプロジェクトにおいては、IT部門だけでなく、事業部門、マーケティング、デザイン、顧客サポートなど、様々な部門からメンバーを集めた組織横断的なチームを編成することが重要です。
特に、ITリテラシーの高いメンバーと低いメンバーが共同で作業することで、技術的に実現可能かつユーザーにとって価値のあるソリューションが生まれやすくなります。また、経営層の参加や支援を得ることで、プロジェクトの推進力と組織内での正当性を高めることができます。
実体験ベースの理解
デザイン思考の「共感」フェーズでは、アンケートやインタビューだけでなく、実際にユーザーの行動を観察したり、ユーザー体験を自ら体験したりすることが重要です。
例えば、工場のDXを進める場合、オフィスにいるプロジェクトメンバーが実際に工場の現場を訪れ、作業者の動きを観察したり、可能であれば実際の作業を体験したりすることで、データだけでは見えない課題や機会を発見できます。このような実体験ベースの理解は、真に現場に寄り添ったDXソリューションの開発につながります。
迅速な検証サイクルの確立
デザイン思考の「プロトタイプ」と「テスト」のフェーズを効果的に回すためには、迅速な検証サイクルを確立することが重要です。DXプロジェクトでは、完全なシステム開発を行う前に、ペーパープロトタイプや簡易的なアプリケーションを使って、コンセプトの検証を行うことが効果的です。
また、既存のツールを活用した簡易的なプロトタイプを作成することで、低コストかつ迅速に検証を行うことも可能です。重要なのは、「完璧なものを作ろう」とせず、「学習するために作る」という姿勢を持つことです。
これらのポイントを押さえることで、DXにおけるデザイン思考の効果を最大化し、真に価値のあるデジタルトランスフォーメーションを実現することができます。
DXでデザイン思考を行う上での注意点
デザイン思考はDX推進において強力なアプローチですが、実践する上ではいくつかの注意点があります。以下に主な3つの注意点を紹介します。
技術偏重に陥らない
DXでは先進的なデジタル技術に目を奪われがちですが、デザイン思考では「技術ありき」ではなく「ユーザーニーズありき」のアプローチが基本です。AI、IoT、ブロックチェーンといった最新技術に魅了されるあまり、本当のユーザーニーズを見失わないように注意が必要です。
技術の選定は、ユーザーの課題を理解し、解決策の方向性を定めた後に行うべきであり、「この技術を使いたいから」という理由でプロジェクトを進めることは避けるべきです。常に「この技術がユーザーにどのような価値をもたらすのか」という視点を持つことが重要です。
組織文化との衝突に備える
デザイン思考は「失敗から学ぶ」「不確実性を受け入れる」という価値観を前提としていますが、これは従来の日本企業の文化と衝突する場合があります。特に、計画重視の組織や失敗に厳しい組織では、デザイン思考の導入に抵抗が生じることがあります。
このような文化的衝突に備えるためには、小さな成功体験を積み重ねる、経営層の理解と支援を得る、デザイン思考の価値を数値で示すなどの工夫が必要です。また、組織全体にデザイン思考を広める前に、小規模なプロジェクトで試験的に導入することも効果的です。
表面的な導入に終わらせない
デザイン思考を形だけ導入し、実際にはユーザーとの深い対話や反復的なプロトタイピングを行わないという「表面的な導入」に終わらせないよう注意が必要です。ワークショップを開催しただけで満足したり、一度のユーザーテストで終わらせたりすることは、デザイン思考の本質を見失っています。
デザイン思考はプロセスの形式ではなく、ユーザーへの共感、多様な視点の統合、反復的な改善という本質的な価値を実践することが重要です。表面的な導入を避けるためには、デザイン思考に関する正しい理解を組織内で共有し、継続的な実践を支援する体制を整えることが効果的です。
これらの注意点を意識することで、DXにおけるデザイン思考の効果を最大化し、真のデジタルトランスフォーメーションを実現することができます。
DXにデザイン思考を取り入れた成功事例
デザイン思考を活用したDXの成功事例を紹介します。これらの事例から、デザイン思考がどのように効果的なDXにつながるかを理解することができます。
製造業:コマツの「スマートコンストラクション」
建設機械メーカーのコマツは、デザイン思考を活用して建設現場の課題を深く理解し、「スマートコンストラクション」というDXソリューションを開発しました。このプロジェクトでは、まず建設現場での観察と関係者へのインタビューを通じて、人手不足や熟練技術者の減少、工期短縮の要請といった業界の本質的な課題を特定しました。
その後、ドローンによる測量、3Dデータに基づく施工計画、ICT建機による自動制御など、デジタル技術を統合したソリューションを段階的に開発。小規模な現場でプロトタイプを検証しながら改良を重ね、現在では多くの建設現場で採用される成功事例となっています。
このプロジェクトの特徴は、「デジタル技術の導入」ではなく「建設現場の生産性向上」という本質的な課題解決を目指した点にあります。デザイン思考による深い顧客理解が、真に価値のあるDXソリューションの開発につながった好例といえます。
金融業:みずほ銀行の「Mizuho Wallet」
みずほ銀行は、デザイン思考のアプローチを用いて、従来の銀行アプリとは一線を画する「Mizuho Wallet」を開発しました。このプロジェクトでは、まず様々な年代の顧客の金融行動や日常生活を観察し、「銀行は必要だが、銀行に行きたくない」「家計管理は重要だが、面倒に感じる」といった本音を抽出しました。
これらの洞察をもとに、単なる残高照会や振込機能だけでなく、家計管理、ポイント管理、決済機能などを統合したアプリを設計。早期からユーザーテストを繰り返し、UI/UXを改善していきました。
結果として、従来の銀行アプリより高い顧客満足度を獲得し、特に若年層の利用率向上につながっています。デザイン思考による「顧客の生活全体の中での金融サービスの役割」という広い視点が、差別化されたデジタルサービスの開発を可能にした事例です。
参考:みずほWallet | 銀行がつくった新しいおサイフアプリ
サービス業:スターバックスの「Mobile Order & Pay」
スターバックスは、デザイン思考を活用して顧客体験の痛点を特定し、「Mobile Order & Pay」というモバイルアプリサービスを開発しました。同社は、店舗での顧客行動を詳細に観察し、「混雑時の待ち時間」が顧客満足度に大きく影響していることを発見しました。
この洞察をもとに、スマートフォンから事前に注文と決済を行い、店舗では受け取るだけというサービスをデザイン。プロトタイプを限定店舗でテストし、ユーザーフィードバックを基に改善を重ねました。
このサービスは、単なるデジタル注文システムではなく、「第三の場所」としてのスターバックス体験を強化するものとして設計されている点が特徴です。デザイン思考による「顧客体験全体の中での痛点」への着目が、効果的なDXソリューションにつながった事例といえます。
まとめ
本記事では、DXにおけるデザイン思考とアート思考の重要性について解説しました。デザイン思考はユーザー中心の課題解決アプローチであり、共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイプ、テストというプロセスを通じて、真に価値のあるデジタルソリューションの開発を可能にします。
一方、アート思考は創作者の内面や感性から出発し、オリジナリティの高い価値創造を目指すアプローチです。この二つの思考法は対立するものではなく、補完関係にあり、両者を組み合わせることでより競争力のあるDXが実現可能となります。
DXにデザイン思考を取り入れるメリットとしては、ユーザー中心の価値創造、イノベーションの促進、開発リスクの低減が挙げられます。また、効果的に実践するためには、組織横断的なチーム編成、実体験ベースの理解、迅速な検証サイクルの確立が重要です。
一方で、技術偏重に陥らない、組織文化との衝突に備える、表面的な導入に終わらせないといった注意点も忘れてはなりません。コマツのスマートコンストラクション、みずほ銀行のMizuho Wallet、スターバックスのMobile Order & Payなどの成功事例からは、デザイン思考がDXの質を高める可能性が示されています。
デジタル技術の導入自体が目的ではなく、それによってユーザーや社会にどのような価値を提供できるかを考えることがDXの本質です。デザイン思考とアート思考は、その本質に立ち返るための重要な思考法であり、今後のDX推進において不可欠なアプローチと言えるでしょう。

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